山形の山から生まれた”ゾゾロヲ”。
2020年に、作品について対話鑑賞する企画があり、作品に込めた想いや、制作のきっかけや画材について話してます。
その時の内容の書き起こしです。(抜粋しています)
“ゾゾロヲ”を語るー鑑賞者編
今日はsakiさんが用意してくれた作品を鑑賞していきたいと思います。
まずは鑑賞者のMikiさんに最初の印象を伺い、その後Sakiさんに作品の解説や想いをお話しいただきます。
Miki
最初の印象は「かわいい」という感じです。なんだろうと思いましたが、下の方に山が見えて、上には月が浮かんでいる。暗い感じですが、キャラクターがかわいいので怖いとか不安のイメージを感じませんでした。
では、もう少し細かく描かれているものを話してもらえますか?
山が描かれていて、その上に月が浮かんでいる。そしてその山の上に黒くてかわいい大きなものがいる。そのキャラクターは笑っているのか、笑っていないのかわからない表情でいる。
その黒いものについてもう少し話してもらえますか?
丸いですね・・・
どんな表情かわからない?
表情がわからないんです。目も口も笑っていないように見えるけど、そして色が黒いから笑ってはいなさそうだけど、怒ってもいなさそうみたいな。表情がない。
一番最初に”可愛い”というのが出てたけど、笑ってはない、表情がないのに可愛いと感じたのはどこからでしょうか?
なんでしょうね・・・確かに。黒目が大きいからかな。黒目が大きかったら可愛く感じますよね。
目が離れているのもかわいいし、形も丸くて柔らかいイメージもかわいく感じるかも。
もしキャラクターの目の下にあるものが口だったとしたら、それは表情を作っているように見えますか?
そうですね、表情を作っているんだと思いますが、読み取れないんですよね。喜怒哀楽ではなさそう。喜怒哀楽ではない。
例えば、声を発してるとか、音が聞こえるとか、そのようなイメージは?
ゴーとしてそう。こいつが出てきたタイミングで・・・
あ、これはどこからか出てきたんですね。
山から出てきた。下の山から出てきてて。喋ってなくて周りが音をたててる。
山の向こう側にいる感じ?
山脈すべて・・山を全て繋ぐ
そのときにゴーと音を立てながら登場してくる・・・笑
で、この無表情でくる笑
さっき話してくれた月が見えてますよね?月はどっち側に?月は透けてるのかな?
確かに、これは透けてるから、月は後ろにいて透けて見えてるんだと思う。この中にはいない。面白いな。
なるほど、面白いですね。月の周りも色が薄くなってて、向こうが見えてるんでしょうか。
けっこう大きいですね、こいつそしたら。
これは突然現れて人間には見えるのかな?
心が綺麗な人だけ見える。本当はいるから見えてる。でも日々忙しい人とか、目の前しか見てない人は会うことができない。会えたら人間本来の状態にいるって。
じゃあ私たちは今見えているから・・・笑。面白いですね。何か他に気づいた点とかありますか?
後ろの表現が不思議。夜のシーンなんですが、背景が白いのが不思議です。どう自分の思考を帳尻合わすのか?透けてるはずなのに口がどうなっているのか、現実的に考えたら帳尻合わない。こいつの中は白い??
この生物のあたりが夜を表しているって感じなのかな?
“ゾゾロヲ”を語るーアーティスト編
では、Sakiさんの解説に移りたいのですが。
この作品が作られたきっかけなどをお話ししていただけますか?
この作品が作るきっかけは、大学時代山形県に住んでいたんですけど、ある夜の風の強い日、歩いてたんですよ。
私の住んでいた街の周りは、ちょっと遠足でも登れるような感じのちょっと小さめの山に囲まれていたんですよね。
そこの山のところに住んでいて、その山が風の強い日の夜に歩いていたら、すごい強い風が吹いて、グラグラと揺れて見えたんですよ。山が動いて見えた。それを見て、あーなんかいるぞって、強い感覚を覚えたんですね。
で、目に見えないもの、その実際には私たちの近くにとらえられないものにすごく前から興味があって、その時に覚えた感覚と、目に見えないものを具象化して自分なりに想像して形として表してみようと試みたのがこの作品です。
「ゾゾロヲ」という名前をつけました。
「ゾゾロヲ」ですか。
さっきMikiさんに感じとってもらった、夜だったりとか、なんかいるなという感覚が伝わったんだなということが私的には驚いたっていうか・・・
そうですよね、音の表現もゴーというのも風のようなね。
本当にすごい風で、台風かなというようなその日は。気の揺れる音が怖いくらい響いていたんですよね。まさに何か出てくるような音が。
このさっきMikiさんが話してくださった、この黒い物体とその向こうは白く見えてるのって、そこら辺はどうしてこういう表現になったんですか?
まず夜の絵だったんので、山が暗い山がすごく怖いなと。ちょっと怖い感覚にしたくて黒に塗りつぶしているんですけど。月明かりに照らされて山の輪郭がはっきりしていたことが印象に残ったことと、実際に存在しないものを描くということで、実在する山と実在しない不思議な生物、そこを対照的に描きたかったので少し透けてるような表現が出ればいいなと思って。
物体としての濃度が薄いというか、本当は普段は見えないけど、特別の時だけ見えたり、自分の感覚が研ぎ澄まされたときだけ見えるという。
面白いですね。私は口元の影が見えて立体的に見えてるのが気になって、どうやって作られてるのか聞きたいです。

表現としては、実態としてないものなんですが、月明かりが反射していないのにいるというように見えたらいいなと後ろが透けているように描いたんです。
普段作品を作るときに、日本画をやられる方は和紙を主に使うと思うんですが、私も普段和紙を使って制作しています。
一枚の和紙に買うのではなく、和紙をコラージュとして何枚も貼りあわた画面作りをしているんですね。
この作品もそうで、下地を新聞紙だったり、少し古い古本屋で売ってるような本をビリビリちぎって画面にはって、その上から薄い和紙を何枚も貼って画面作りをして、空気の層をイメージして描いています。
この作品も、和紙を貼って新聞紙を貼ってまず隅で書いてその上にさらに和紙を貼ってさらに上から描くという方法で作ってます。
だからこの左上の方の黒いのは和紙の下にあるってことなんですよね?
口元は、新聞紙を下に貼ってさらに和紙を貼り合わせてます。
口元に関しては大きなゾゾロヲ君のシルエットをまず墨で描いて、その上に和紙を貼って描いています。
描いて貼るを繰り返して3層くらいになってます。
そうなんだ。透けた感じのところもそういう風になっているからこんな表現になってるんですね。
和紙そのもの自体の素材に興味を持っていて、薄いけど丈夫なんですよね和紙って。すごく良く伸びますし下が透ける感じとか、紙そのものの材質感とか色味がすごく好きで、岩絵具は和紙を塗りつぶしてしまうというか背景で塗りつぶしてしまう場合が多いのですが、私は和紙そのもの自体が好きなので、そのもの自体を見てもらえるような画面を見てもらえたらいいなと、いつもこのような表現方法をしています。
透ける特性を活かして、下のものを透けさせて、重ねていってるんですね。
月のあたりの透けている部分が、水墨画のような感じがして、山がまだ向こうの方にも見える感じがします。
ありがとうございます。私も水墨画が好きで挑戦したことはないのですが、もともと書道を学んでいたので、墨と和紙の組み合わせがすごく好きなんですよね。
そこから、このような作品を作ろうというきっかけになったんですか?
そうですね。
あとは、目に見えないモンスターみたいなものを感じたときに、小さい山って村で愛されている山は、山の神神社という小さな祠が建っていて、その神社が身近な神様が宿っているような印象があるんですね。
神というとキリストとか大きな存在、雲の上の存在で手の届かない気がするんですけど、でももっと身近にいる神様的な存在。民話だったり村に代々伝わるような物語に発想を得て、この生物もきっと愛されつつどこかにいるのだろうなという思いで描いたんです。
昔話というイメージから和紙と墨で、水墨画の古来のような古いような感じを出せたらいいなとこの画材を選びました。
Sakiさんが、愛されてる存在としてゾゾロヲ君を作っているから、怖いではなく可愛らしいというMikiさんの感想にもつながったのかな。
そうですね。怖いというか、かわいいけどなんだか得体の知れないわからないというものでただ可愛いだけじゃなく、不気味さも残したかったので伝わってよかったなと。
MikiさんSakiさんのお話を聞いてどう感じましたか?
面白いですね。
和紙を重ねて描かなかったらどういう表現になるのかなと気になりました。一枚の和紙だとどんな表現になるのか、気になりました。3枚のヴァージョンと。
あとは、実在するものとしないものの共存を描いたのが面白い。その見えないものを見ていきたいという思いだけじゃなくて、見えるものと見えないものもどっちも見ていきたいというのが優しいというか、全て大事に見たいというのが素敵だと思いました。
作者としてはただ可愛いだけで終わってほしくないなと思って描いている。ただ世の中に溢れている得体の知れないもの、例えばお化けだったりをただわからないから怖いで終わらせるのは勿体無いなと感じている。得体の知れないものと目に見える山の共存で優しい世界を見てもらえたのは伝わって嬉しいなと思っています。
私も目に見えないものをこれからも見ていきたいと思っているので、それはもう想像力の世界だなと思っているんです。
でも多分実際存在はあるんだろうなと信じています。その考え方や柔軟な見方が伝われば、深いところまで見てもらえたんだなと思っています。
本当ですね。
今日はとても有意義な鑑賞タイムでした。アーティストと鑑賞者の対話を通じて、作品の見方が深まりましたね。ありがとうございました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。